2023/06/22 02:31


シードルを買ってみよう、飲んでみようと思ったときに、その選び方が意外と難しいのがシードルです。同じリンゴを使ったお酒であっても、国の違い、リンゴの違い、甘辛度など、シンプルなのに広くて、実は深いのです。まずは、見た目や表示から選ぶ方法をご紹介します。

まずは、シードルを甘いか、甘くない辛口かで選ぶ方法です。シードルには、甘口(スイート)、辛口(ドライ)、その中間の中口(ミディアム)があります。甘口と辛口の違いは、発酵期間の長さです。発酵がスタートした時はまだ糖がアルコールに変わりきっていないため、甘口となります。そのまま発酵を続けると糖はアルコールと炭酸ガスに変わって行くため、甘くない=辛口のシードルが出来上がります。発酵を短時間で終わらせた甘口のシードルの場合、りんごジュースに印象を強く受けるため、果汁に糖を加えて辛口と同等のアルコールを作り、お酒らしい複雑さと甘みを兼ね備えたシードルもあります。

2つ目は国で選ぶ方法です。今、日本で買えるシードルは、国産はもちろん、イギリス、フランス、スペイン、ドイツ、スイス、アメリカ、オーストラリアなど十数ヶ国から輸入されています。以外に多くて驚かれるのではないでしょうか。イギリスやフランスのシードルに比較的多いファンキー、スモーキーなシードルは、自然酵母を使った伝統製法のシードルに多く、好き嫌いが分かれる傾向があります。その他の国は、比較的クリアで飲みやすいタイプとなっています。

3つ目は、自身がワイン派かビール派かで選ぶ方法です。ワインのようにゆっくり味わいながら飲むのか、ビールのようにゴクゴク飲むのか、シードルは、大きく分けるとこの2タイプになります。その違いは、容器である程度判別できます。ワインスタイルは、瓶もワイン用ボトルの750ml、360mlに入っていることが多く、ビールスタイルは500mlボトルやクラフトビールと同じような形をしたボトルで販売されています。

シードルを選んだら、次にシードルの温度を最適に管理しましょう。シードルにはリンゴ酸が多く含まれているため、10度以下に冷やした方が美味しいです。一般的には、冷蔵庫で冷やして飲むと良いです。慣れて来たら、ボディがしっかりしていて、渋みがあるシードルはやや温度を高めにして飲んでみるなど、温度を変えて試してみると面白いです。同じ日本のシードルでも甘さや酸の強さの違いにより、凍る間際まで冷やした方が良いものもあれば、それだと冷やしすぎとなるものもあります。ベストな温度は生産者としても把握しておく必要があります。

シードルが冷えたら、グラスに注ぎましょう。グラスによって、味わいは変わります。フランスのブルターニュでは、ボレと呼ばれる陶器製のボウルで飲んだり、イギリスやスペインなどでは、タンブラー型のグラスで飲んだりしますが、ワイングラスを使用する香りも楽しめます。瓶内二次発酵で造られたガス圧が高めな高級シードルであれば、形状がやや縦長で膨らみも持たせているシャンパングラスに注いで細かい泡が立ち昇る様子を楽しむのも良いでしょう。

ではいよいよ、シードルを口含んでみましょう。シードルも様々な香りや味を感じることができますが、味わいの骨格を作っているのは甘味、酸味、渋味の3つです。

甘さは、シードルの味を決める最も重要な要素の一つで、原料のりんごにはブドウ糖、果糖、ショ糖、ソルビトールの順で多く含まれています。甘口のものは、果実由来のものと加糖によるものがあり、アイスシードルを除きアルコール度数が高い甘口は、加糖によるものです。

酸味は、主にリンゴ酸とクエン酸です。冷やすほど酸をはっきり感じることができる一方、室温近くになると酸を感じにくくなり、ぼやけた味わいになります。他にも、スペインのシードラ・ナチュラルは、リンゴ酸を乳酸に変えるマロラクティック発酵を経ており、乳酸特有のまろやかな酸味を感じます。一部のリーズナブルなシードルには、クエン酸などを使って酸味を補っているものもあります。

渋味は、ワインと同じようにポリフェノールの一種でタンニンが作用して渋味を感じます。シードルに多いりんごポリフェノールは比較的渋みや苦味が控えめと言われています。生食用のりんごにタンニンは少ないため、そのりんごのみを使ったシードルには渋味はありません。一方でシードル用品種から作られたシードルにはしっかりとした渋みを感じることができます。

同じりんごを使っていても、シードルの製法によって味わいは変わります。日本では主に、瓶内二次発酵、タンク内二次発酵、炭酸ガス圧入方式が採用されており、それぞれで味わいが異なります。最も大量生産に向いているのが、炭酸ガス圧入方式(カーボネーション方式)です。人工的に炭酸ガスをりんごワインに溶け込ませて、シードルにします。一方、酵母の働きによりシードルに炭酸を加える製法が瓶内二次発酵とタンク内二次発酵で、主に一次発酵でアルコールを、二次発酵で炭酸をシードルに加えます。ちなみに、スパークリングワインを造るワイナリーは瓶内二次発酵、シードル専門醸造所やビールの醸造所などはタンク内二次発酵を採用する傾向にあります。この製法によっても味わいが異なり、当社も採用する瓶内に澱を残す瓶内二次発酵は、澱の主成分である酵母菌が自己分解によりアミノ酸やペプチドに変わり、シードルに深みや幅を与えます。
一方、炭酸ガス圧入方式は、フィルター等を用いて澱を取り除き、クリアなシードルにするため、品質として安定する一方、時間とともに変化を楽しむことはできません。日本はシードルの原料に主に生食用りんごを使用しているため、発酵させただけでは味わいに厚みがなく単調になりやすいですが、瓶内二次発酵はシュールリー製法の原理を用いることでシードルに複雑さを加えています。