2023/06/14 09:32
近年、欧米各国ではグルテンフリーなどの健康志向や、ロゼやフレーヴァーシードルの登場によりお洒落なお酒に生まれ変わり消費が伸びてきました。日本国内でも、大手ビールメーカーからワイナリー、リンゴ農家などによるシードル造りが広まり注目されています。りんご産地や醸造所巡りを楽しむシードルツーリズムが盛んな海外産地もあり、観光立国を目指す日本においても期待が高まっています。
世界的にシードル市場が伸びるなか、シードルがまだ新しい日本のりんご生産者が、世界各国のシードルの特徴や文化を知ることはとても楽しいので、皆様にもご紹介いたします。
・フランスのシードル(Cidre)
日本でリンゴの果実酒を指す「シードル」は、フランスのCidreが語源で、19388年(昭和31)、青森県弘前市の朝日シードル株式会社がフランスから技術者を招いて醸造を始め、Asahi Cidre(現ニッカシードル)として発売したことから、日本ではシードルという名前が広まりました。主な産地はブルターニュ地方とノルマンディー地方で、気温が低く、雨が多いなど、ワイン用ブドウの栽培が難しい地域だったため、シードル文化が発展しました。原料のリンゴは、多くのシードルで数種類から10数種類をブレンドしていますが、単一品種から作られるシードルもあります。小さなシードル農家「フェルミエ」などでは、今もなお天然酵母を使って醸造しており、果実味とともに複雑味や自然味豊かなシードルに仕上がっています。
・スペインのシードラ(Sidra)
シードルは、スペイン語ではSidra(シードラ)とよばれ、スペイン北部のアストゥリアス地方やフランスにまたがるバスク地方を中心に、古くから作られてきました。シードラには、瓶を頭上に掲げ、グラスを腰の位置に構え、高いところから泡立てさせながら注ぐ「エスカンシアール」という独特の注ぎ方があります。酸味や硬さを感じる濁りシードラを空気により多く触れさせることで、まろやかな味わいに変わり、香りが引き立ちます。現地では室温のまま提供されている場合が多く、温度は冷やしすぎず10度前後がオススメです。アストゥリアス州では、地元産リンゴのみを使用したシードラのみにSidra de Asturias(シードラ・デ・アストゥリアス)と表示を許可していますが、ほかにも炭酸ガスや糖の添加をおこなわないシードラにNatural(ナトゥラル)と表示するなど、地元産のりんごを使った伝統的なシードラを大切にし、価値を高める取り組みをしています。
・イギリスのサイダー(Cider)
シードルは、英語ではCIDER(サイダー)となります。日本では、サイダーと聞くとノンアルコールの炭酸飲料(ソーダ)をイメージする方が多いですが、イギリスではリンゴ酒がサイダーです。パブなどではパイントサイズのタンブラーグラスでゴクゴクと飲むことが多いサイダーは、甘さ控えめのミディアムからスッキリドライのものが多く、渋みがあり、なかにはスパイシーなものもあります。イギリスは、世界で最も多くサイダーを生産、消費している国で、世界的なメーカーがある一方、クラフトサイダーをつくる小規模サイダリーも多く、2005年頃からイギリスで続いたサイダー人気は、その後クラフトサイダーが牽引してきました。
・ドイツのアプフェルヴァイン(Apfelwein)
ドイツのヘッセン地方、フランクフルトとその周辺はアップルワインの産地として知られています。ドイツも、リンゴ酒の独自の文化を持っており、青い模様が描かれた灰色の陶器製ジャグ(ベンベル)にアップルワインを入れ、そこからグラスに注がれます。また、このベンベルはアップルワインを提供しているお店の看板の一部としても使われています。日本にもシードルを提供するお店にこういった目印があれば、シードルを提供するお店をもっと見つけやすくなりそうです。おいしいアップルワインは、リンゴの風味が豊かで、しっかりとした酸味もある、日本人も飲みやすいリンゴ酒です。
・アメリカのハードサイダー(Hard Cider)
アメリカの一部の州ではノンアルコールのジュースをアップル・サイダーとよぶことから、お酒のサイダーはハードサイダーとよんで区別しています。アメリカでも開拓時代からサイダーが飲まれていましたが、1920年に始まった禁酒法により生産量が激減し、その政策が終わったあとも、サイダー用リンゴの栽培の再開に時間を要するサイダーではなく、麦と水をベースに作れるビールに押されて、その生産量は低調のままでした。しかし、1990年代にブリュワリーが多数参入することによりサイダーは復活を遂げます。2011年になるとクラフトサイダーが注目され始め、リンゴの生産量が多いオレゴン州やワシントン州周辺では、専門のサイダーハウスが多数設立されるに至ります。ハードサイダーは、リンゴを数種類ブレンドして複雑な味わいにすることはもちろん、ジンジャーやフルーツ、チョコなどを加えたフレーバー・サイダーも多く、自由の国らしさがHard Ciderにも現れています。
・日本のシードル
日本のシードルは、つがる、ふじ、紅玉など、みなさんに馴染みのある生食用のりんごを使って作られているシードルが多く、それらを単一品種または数種類ブレンドして作られたシードルが主流です。しかし、この数年の流れとしてりんご農家がシードル造りに参加することが増えてからは、酸味の強いクッキングアップルをブレンドしたシードルも増えてきています。日本の在来種である「和林檎」や原生種に近い小玉のクラブアップル、海外原産のリンゴ品種を使うことで、海外のシードルに多く含まれている酸味や渋みが特徴的なシードルを目指す動きも増えてきました。生産地は、青森、長野、北海道などを中心にりんご産地全体に広がりますが、特にワイナリーが多い地域では、毎年新しいシードルが誕生し、シードル専門の醸造所も建設されています。